>ロバートさんと初めて出会したのは1974年の秋の日であつた。 六ケ月前に香港から帰国してやつと東京生活が初まつている時であつた。仕事も見つかり 昼は三越百貨店、夜は近くに有る女性の人が営業している夜食店で働いていた。 ところがある日突然福生に住むアメリカ人と結婚している女の友達にパーティをするから来ないではなく、 来なさいと言われた電話が仕事場にきた。仕事で疲れているので行けないと 断っても処置してくれず、忙しい仕事中だつたので処置しないと 彼女が電話を切ろうとしないので、仕方なく行きますと答えた。 この友達のパーティ場所がロバートさんとの初めての出会いであつたのである。
女の友達から電話があつた次の日に品川駅から彼女の住む福生に電車に乗つていつた。 電車で一時間半ぐらい掛かつたと思う。電車に乗つてから座席が空いたが立つことにした。立川駅で 電車線の切り替えがあり、眠たままで通り越しをするかも、と思い立つていることにした。 それでも私は凄く疲れていたせいか、立つていても上と下のまぶたが心地よさそうに重なつていた。 電車が続々右左に揺れながら”ゴトン-ゴトン,ゴトンーゴトン”と音をたてながら進んで行く、 何故か自分の高校時代の電車に乗つている様な気分になつた。
やつと福生駅についた。 駅から15分程歩くと女の友達の家に到着。玄関のボタンを 押したら玄関の扉がまつたく知らない人が開いてくれた。扉が開いた瞬間に意外な知覚をうけた。 空気の重圧が私の方に押し寄せてきた感じを受けたのである。おそらく部屋の中での賑やかな人々の会話の圧力が 部屋の空気を押しているのではなかろうか。情景はほとんど大人ばかり、横田基地の住宅なのでたぶんアメリカ人の人達だろうと思つた。 日本人のカプルも何人か混ざつていた。テレビ番組の野球試合中継が奥の部屋から聞こえてくる。 十分程してから、友達が私の前に現れた。いろいろと忙しそうに見えた。
一時間内に品川の方に帰るつもりでいることを友達に伝えた。 その後、玄関から誰かはいつてきた、私の知らない日本女性と若いアメリカ人の男性だつた。 その知らない日本女性がこの若い男性を私に紹介した。彼は既にワイングラスを手に持つて ここに到着したみたいだ。 その後15分程してから帰るつもりで、玄関の方に向いている途中に 私の女の友達に腕をつかまえられた。”デートの約束したの?”、と聞かれた。 え!何がデイト?と彼女に疑問をかけたら、、、彼女が私の腕を引いて、このついさき 紹介された男性の前に突き出されたのである。そして、彼女がまた私に聞くのである。 ”この人とデートをする約束したの?”と聞かれて私ながら女の友達の強力な態度が変に思えたのである。 わたしの女友達とこの男性の友達が協力してこの男性と私を付き合わせようとしているみたいである。 ”I think this is a set up."と彼にいつたら、"I think so." と彼も同意した。 私思うには両方の友達の理由が解らずじまいで、面倒な状態と品川駅までの電車時間帯が気になつていたので さつさと以外な状態をなるべく早めに終わりたく、この男性に積極的に質問をかけた。 Do you have girlfriend ?"私の質問に只今いません、と彼が答えた。 わたしも只今ボ-イフレンドはいないと答えた。 ”Well then,are you interested in having coffee with me?" と質問をかけたら、 彼から "yes, I would like that" との返事が返ってきた。 兎に角私達の出会いは軽い気持で始まったのである。
後でロバートさんから聞いた話では、あの日彼の仕事仲間の奥さん、日本女性に、”私といつしょに来なさい”と無理やりに言われて誘われ 彼の部屋から連れ出されてパーティに来たのだそうだ。あの日彼は仕事が午後から休みで、自分の部屋でゆくりとワインを飲みながら 午後の時間を自分ひとりでくつろいでいる時だつたそうだ。
私達の最初のデートの待ち合わせ場所は私が働く銀座にある三越本店であつた。 デートの日は、私の勤務の日で、私の仕事からの切り上げは午後七時だつた。 私が働いている一階はバッグのバーゲンの日で沢山のお客様で賑わつていた。 その賑わつて込み入っていた場所でも、ロバートさんの姿が見えた。あれあの人、かつこいい男の人だなあと初めて気が付き、ふとそう思った事を記憶している。 腕時計を見たら六時四十五分だつた。この人の時間守りに、なるほどと思つた。時間を守ると言えば、、,私は待ち合わせ時間に凄く弱い方なのである。 特に高校生時代のころを思い出す。 私は自分の家から駅まで十五分、よく時間ぎりぎりで走つて学校行きの電車で通つていた。 ある日また時間ぎりぎりつこむ様な感じで電車に入ると、沢山の乗客の目が私を見ていた。 ふと乗客の顔に気が付いた時私は驚いた。ほとんどの乗客は私の中学校の先生方だつたのである。実際の私の態度は何もなかつたような知らぬ顔して別の方向に顔をむけた。 併し乍ら恥ずかしさが湧いていた事を随分昔の事なのに今だに新鮮に記憶にある。その嫌な経験の為に頭脳の記憶箱に'きちんと時間を守もる事′が納めてあるのである。
コーヒー店と帝国ホテルのバーでお酒を飲んだ。ロバートさんと私はその夜何を話ししたか覚えがないのである。
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